その日はいつもと違って、静かな朝だった。

水瀬が遅れるのはいつもの事だが、一緒に来るはずの相沢が来ていなかった。

そして、俺の隣の席の女の子も…。


KANON  〜Say Hello〜


昼休み、昼食を取った後に水瀬に事情を聞く事にした。

北川「なあ、水瀬?」

名雪「な〜に?」

北川「相沢の奴、風邪でも引いたのか?」

名雪「ううん。そんな事ないよ。ただ、『今日は大事な用事があるから休む』って言ってたよ」

北川「大事な用事?」

名雪「うん。私もどんな用事かは知らないけど、祐一が真剣に頼んでくるもんだから、了承したんだけどね」

あの相沢が真剣な顔ね…。

北川「そっか…。あ、それとさ……」

名雪「香里なら、『風邪引いたから休む』って……」

北川「……」

いつもはボ〜ッとしているのに、どうしてこういう時だけは鋭いんだろうか?

名雪「なんか失礼な事考えてない?」

ギクッ!

北川「そ、そんな事ないぞ!」

名雪「そう? でも、祐一と香里がいないと、寂しいね…」

北川「そうだな…」

何となしに、美坂の席を見て相槌を打つ。

しかし、そんな俺の様子に水瀬がニコニコと笑って俺の顔を見ていた。

北川「な、何だよ?」

名雪「北川君、香里の事好きでしょ?」

ギクギクッ!

北川「な、な、な、何だって、そ、そ、そう思うんだよ!」

いかん、完璧に動揺している!

名雪「やっぱりだね」

北川「……」

名雪「前から、香里を見ている北川君の目が違うな〜と思ってたけど、やっぱりそうだったんだね」

北川「知ってたのか?」

名雪「香里はこう言うことに鈍いから、気付いていないと思うけどね…」

意外だ。

普段ボ〜ッとしている水瀬が…

名雪「なんかまた失礼な事考えてない?」

ギクッ×3!

北川「そんな事ないぞ!」

名雪「さっきより、力入った否定の仕方だよ?」

北川「……気のせいだよ…」


放課後、俺はお袋の知り合いがやっている喫茶店「淡雪」でバイトをしていた。

本当なら、美坂の見舞いにでも行きたいのだが、ただの友達でしかない俺が行くのは躊躇われる。

それと、一応親から仕送りが来るが、必要最低限(家賃・水道・電気・ガス)の分だけなので、その他の分は働いて稼ぐしかなかった。

まあ、一人暮らしをする上で決めた条件だったので、仕方ないのだが…。

でも、この「淡雪」のオーナーはとてもいい人で、何かと助けてくれる。

そのお陰で、人並みの生活を自力で過ごす力を徐々に身につけていけた。

おっと、話がずれたな…。


そして、その日の夜の事だった…。

祐一「よっ、お邪魔するぜ」

今日学校を欠席していたはずの相沢がやってきた。

よく見ると、疲れて痩せこけたような顔をしていたが、それとは逆に何か嬉しそうな顔をしていた。

北川「本当に邪魔だ。忙しいっていうのに…」

祐一「3、4席しか客いないぞ…」

北川「料理作るのに…」

祐一「既に食い終わった後のようだが…」

北川「皿を洗うのに…」

祐一「マスターがやってるぞ」

そんな風に馬鹿な事を言い合って、俺は少しホッとしていた。

相沢に逢った瞬間、俺の心の中で危機感みたいなものを感じていたからだ。

あの日の事が頭に引っかかってたから…。


閉店時間も近づき、客が相沢だけになった。

マスターは片付けを俺に任せ、先に帰っていった。

静かになった店内で珈琲を飲みながら、俺は相沢に今日の事を聞いた。

北川「でも、どうしたんだよ? 今日休んだかと思えば、急にこっちで飯を食いにきたりして…」

祐一「ああ。ちょっと、大事な用事があってな…」

北川「水瀬もそんな事言ってたが、どんな用事だよ?」

祐一「気にするな。大した用事じゃない」

北川「矛盾してるぞ」

祐一「ちょっと、言えないんだ……」

北川「……」

祐一「もう少ししたら、話すよ…」

俺には判っていた。


多分、彼女の事だと…。

だから、聞いてみた。

北川「美坂の事か?」

祐一「!」

俺の言葉を肯定するように、相沢が驚きの顔で俺を見ていた。

「どうして判ったんだ?」と言うような顔で…。

北川「大体判るさ…。お前が美坂に妹の話を切り出した時に美坂の様子が変だったし、今日は二人同時に休んでいたとなればな…。

   そんでもって、今の相沢の顔が嬉しい事があったように綻んでいるしな…」

祐一「……」

北川「やっぱり、あの時の女の子は美坂の…」

祐一「ああ。妹だ…」

北川「そっか…」

そう言って、俺は珈琲のお代りを入れるために席を立ち、カウンターに入る。

暇な時を見計らっては、自分で珈琲を入れているので、手つきは慣れたものだった。

マスターに比べれば味はまだまだだが…。

珈琲を入れていく様を見ながら、相沢が口を開いた。

祐一「聞かないのか?」

北川「……本音を言えば、知りたいと思ってる…。でも、美坂の気持ちを考えたら、聞くべきじゃないと思ってな…」

祐一「香里の気持ち?」

俺はしまったと思って、口を抑えて背を背けた。

北川「……何でもない…」

だが、相沢は今の俺の仕草で勘付いたようだ。

祐一「お前、まさか…」

北川「……」

祐一「そうか…」

俺の沈黙が肯定を物語っているのに気付いた相沢は、静かにふっと笑って残った珈琲を飲んだ。


そして、暫く沈黙が流れた…。


実際には短い時間だが、永遠と思われる程に長い時間が店の中を静寂に包んでいた。

そして、それを破ったのは相沢の方だった。

祐一「香里の事、本当に好きか?」

北川「……」

俺は新しく珈琲を入れて、相沢に渡した。

祐一「……」

そして俺も自分で入れた珈琲を一口飲み、ぽつぽつと語った。

北川「出逢いは入学式。寝過ごして遅刻しそうになって、俺は走って学校に向かった。

   その時、俺と同じように遅刻しそうになって走ってくる女の子二人がいたんだ…」

祐一「……何だか、その時の光景がリアルに思い浮かぶな…」

北川「ま、それが縁であの二人と仲良くなったんだがな…」

俺はまた珈琲を口につける。

北川「酸味がきついな…」

祐一「心配するな。マスターの味に比べれば、どれも同じだ」

北川「励ましているのか、貶しているのか判らんぞ」

祐一「気にするな」

北川「……全く…」

いつもと変わらぬふざけた接し方だが、俺は何故か怒る気にはなれなかった。

きっと、それが相沢の魅力なのだろう…。

祐一「で、その続きは?」

北川「相沢は知らなかったと思うけど、あの頃の美坂は結構笑ってたんだ…。

   成績優秀で容姿端麗で有名だったから彼女の名前は知ってたけど、面倒見が良くて気さくな感じもしてた。

   だから、美坂に告白する奴はいっぱいいた。でも、美坂は全部断ってきたがな…」

祐一「お前はどうだったんだ?」

北川「……少なからず好意は抱いていた…。でも、近くにいすぎたせいかな?

   友達と言う関係に甘えていたかった。もし断られたら、友達という関係すら崩してしまいそうでさ…」

祐一「……」

北川「でも、二学期頃から美坂の様子が変わったんだ。表面上は笑っているけど、どこか無理したような感じで…」

祐一「……」

北川「それで、二学期の終わり頃に見かけたんだ。夕陽を見ながら、涙を流している美坂の姿を…」

祐一「……」

北川「その光景を見た瞬間、今まで胸の中に閉まっていた気持ちが溢れ出して、胸を締め付けたんだ…。

   その時に思ったんだ。俺が美坂の笑顔を守ってやりたい、美坂の事を守れるように強くなりたいって…。

   俺の行動の全てが美坂を中心に動き始めた瞬間だったよ……」

祐一「……」

北川「でも、俺に出来たのは、彼女に笑ってもらえるように馬鹿な事言ったり、ふざけてやる事だけだった…。

   誰かのように、正面からあいつにぶつかる事も出来ずに…」

そう言った瞬間、相沢が驚いて俺の方に振り向いた。

祐一「北川、お前……」

俺は相沢の方を向かず、珈琲を一口飲んだ。そして、そのまま正面を向いて話を続けた。

北川「あの時、バイトの帰り道でお前と美坂の姿を見たんだ…」

祐一「あ、あれは…」

相沢が弁解をしようとしていたが、俺は首を振った。

北川「別にいいさ。俺が勝手に思っていることだ。美坂にも、お前にも責める気は無い…。

   むしろ、俺の方が覗きをした事を謝りたい気分だ…」

祐一「すまない…」

北川「止せよ…。謝られたら、こっちが空しくなる…」

祐一「……」

北川「……美坂の妹さん、助かったんだな?」

祐一「ああ。医者が『奇跡』だって言ってた…」

北川「『奇跡』、か…」

祐一「……」

北川「何だよ?」

祐一「お前になら、話してもいいかもしれない…」

北川「え?」

祐一「北川、これから話す事はあまり面白い事じゃない、むしろ辛い話だと思うが、聞くか?」

北川「……美坂の事、なのか?」

だが、俺の質問に答えずに、相沢は真剣な顔で俺に問い掛けてきた。

祐一「これを聞いて、香里に対する見方が変わるかもしれない。友達でいられるかも判らないかもしれない。

   でも、香里の事をそんなに思っているお前になら、話してもいいかもしれないと思っている。どうする?」

脅しに近い質問の仕方だったが、それがかなり緊迫した問題であった事を物語っている。

俺の知らない美坂を知ること。それは、ある意味残酷なものだ。

美坂本人や美坂の家族が話してくれた事なら、まだ救いがあったかもしれない。

しかし、俺の知らない美坂の姿を他の人、特に、友人から聞かされるのは正直辛いものだった。

でも、俺は敢えて聞く事にした。

ある意味、これは俺の美坂に対する気持ちを試す事かもしれないと思ったからだ。

北川「……聞かせてくれ…」


コチ、コチ、コチ………

店の壁掛け時計の針が動く音が響く。

話を聞き終えて、俺も相沢も黙ってしまったからだ。

相沢が言った通り、あまり面白くない話で、辛い話だった。

北川「そんな事が…」

祐一「これから、香里は栞の為に精一杯償いをしようとするだろう…。自分の人生を賭けてまで…」

正直、あまりにも辛くて哀しい話だった。

そして、自分の無力さを痛感する話でもあった…。

祐一「それでも、お前は香里の事を……」

北川「判らない…」

祐一「え?」

北川「俺は美坂の事が好きだ。それは間違いない。今の話を聞いても、それでも俺は美坂が好きだって思っている。

   だけど、判らなくなっちまった。俺は、美坂を守るに相応しいのか? 無力な俺に、美坂は合わないんじゃないか?

   これからの美坂の人生に俺の想いは重荷にしかならないんじゃないか? そんなネガティブな考えしか思いつかなくなってる…」

祐一「北川…」

北川「悪い、話してくれて本当に感謝している。ただ、俺自身が判らなくなっちまった…」

祐一「……焦る事はないさ。ゆっくり考えていけばいい…」

北川「ああ、そうだな…」

平静を装ってそう言っていたが、本心では泣きたい気持ちを抑えるのに必死だった。


その夜、相沢と別れた俺はアパートの自室のベッドでうずくまって泣いていた。


翌日、俺は学校を休んだ。

一晩中泣いた結果、目が真っ赤になっていたからだ。

気持ちが暗くなっている上に、こんな酷い顔を他の奴に見せる気にはならない。

……なんて言って、本当は美坂に逢うのが怖いのかもしれない。

美坂と顔を合わせたら、俺はとんでもない事を言いそうな気がして……。


そして、その翌日。

俺は教室の前で中を覗き込んでいた。

北川「今日も来ていないか…」

ほっと安堵する。

そして、すぐに自己嫌悪に陥る。

『好きなのに逢いたくない、来て欲しくない』

何とも矛盾した考えで、一層暗くなってしまう。

俺は席につき、机の上に突っ伏した。

いつもだったら暗い雰囲気を盛り上げる筈の俺が最初から暗くなっているのに、クラスメート達がざわめいた。

斉藤「お、おい、北川の奴、どうしたんだ?」

楠木「新手の演出か?」

清水「あの北川君が暗いなんて…」

だが、そんなざわめきの声すら、今の俺にはどうでもいい事だった。

何も考えたくない、何も聞きたくない、何も見たくない……。

そして、その雰囲気を知らない二人がいつも通り、心臓に悪い登校をしてきた。

名雪「セーフだお〜」

祐一「はあ、はあ、はあ……」

だが、俺はそんな光景にすら目もくれず、そのまま机に突っ伏していた。

名雪「あれ?」

祐一「何だ、この重い空気は?」

教室の異質な雰囲気に二人が教室を見回す。

名雪「あ、北川君だよ〜」

祐一「……」

俺はそれに答えることなく、机に突っ伏していた。

名雪「おはよ、北川君♪」

水瀬が挨拶を交わすが、俺は顔を突っ伏したまま、ぶっきらぼうに相槌を返した。

北川「ああ。おはよう…」

名雪「ダメだよ、ちゃんと顔を見て…」

祐一「名雪、そっとしといてやれ…」

名雪「え?」

祐一「いいから」

名雪「う、うん…」

祐一「……」

相沢がどんな顔をしているか判らないが、多分怒っているだろうと思った。

別にいい。どんなに蔑まされても、俺は無力な男なんだ……。


そして、俺はぼ〜っと窓の外を見ながら一日を過ごしていた。

何度か先生に注意されたようだが、その度に相沢と水瀬が宥めてくれていた。

好きな人を守れない俺に、何で、そんな気遣いをするんだよ…。

そして、放課後になった。

俺は学校の屋上でフェンスにもたれながら、ぼ〜っと空を見ていた。

何をするわけでもない。ただ、流れる雲を見るだけ…。

ガチャ

誰かが屋上のドアを開けた。

しかし、俺はそれに気を配るわけでもなく、ただ空を見ていた。

コツ、コツ、コツ、コツ……

足音が段々こっちに向かってきているようだった。

そして、俺の前までその音が近づいていた。

香里「何してるの?」

!?
その声が俺の意識を一気に現実に引き戻す。

北川「み、美坂!?」

逢いたいと思っていた、逢いたくないと思っていた…。

香里「何をそんなに驚いているのよ…」

北川「い、いや、べ、べつに…」

いかん、まだ平静を保てない。

香里「?」

北川「そ、それより、美坂こそ、ここ最近休んでるじゃないか? 一体、どうしたんだよ?」

だが、その質問をした時、一瞬だけ美坂の顔に暗い影が浮かんだ。

しまった! 何、傷をえぐるような事言ってるんだ!?

俺って奴は、なんて無神経なんだ…。

香里「親戚の家で法事があって、ちょっと遠出してたのよ。本当はもう少し早く来たかったんだけど、渋滞に巻き込まれちゃって…。

   取りあえず、先生には事情を説明しておこうと思って来たんだけどね」

北川「そ、そうか…」

本当の事を喋ってくれないのは判っているが、やはり好きな人に嘘をつかれるのは苦しいものがある…。

香里「そう言う北川君はこんな時間にここで何しているの?」

北川「え? いや、別に、空を眺めていただけで…」

香里「空? もう夕方で、夕陽が照っているわよ?」

北川「……」

『夕陽』と言う言葉に、あの日の事を思い出す。

美坂が夕陽を見ながら泣いている日の事を…。

香里「どうしたの?」

北川「あ、いや…」

香里「ふふっ、シリアスな北川君なんて、変なの」

可笑しそうに、屈託ない笑顔で、今は笑っている…。

本当なら、嬉しい筈なのに…。

俺が見たかったものなのに…。

俺が守りたかったものなのに…。

それなのに、その笑顔を見た瞬間、俺の心の中で苛立ちが爆発して、何かが切れた。

北川「……るかったな…」

香里「え?」

北川「シリアスが似合わなくて悪かったな! 俺だってな、人並みに悩みや苦労を持ってるんだよ!

   俺の事何にも知らねえくせに、勝手なイメージを押し付けるような事言うなよ!」

香里「そ、そんな、あたし、そんなつもりで…」

見る見る内に、それが崩れていく…。

北川「あ…」

我に返り、気付いた頃には、美坂の顔が哀しい顔になっていた。

北川「ご、ごめん…。俺、今、ちょっとムシャクシャしてた事があって…」

香里「う、ううん、いいわよ…」

北川「本当に、ごめん…」

そこまで言って、目頭に熱いものが込み上げてくる。

香里「え?」

やばい、気付かれる!

北川「お、俺、バイトあるから、じゃ、じゃあな!」

それを悟らせまいと、俺は急いでこの場を逃げ出した。

今日はバイトなんて入れてないのに…。


北川「何やってんだよ、俺……」

美坂の方が俺なんかの何倍、いや、何十倍も辛い思いをしている筈なのに、何であんな事言ってるんだよ?

最低だ……。

美坂の事を知っていくうちに、段々と自分の嫌な部分が見えてくる…。

こんなにも嫉妬深くて、自分のままならない事があると当り散らす…。

まるで、子供と同じじゃないか…。

やっぱり、ダメだ…。

美坂に俺は合わない…。


その夜、自室で電気もつけず、何をするでもなく、壁に体を預けて、ただボ〜っと天井を見ていた。

北川「こんなに、俺って嫌な奴だったのかよ?」

別に良い奴だなんて思ってないが、最近の俺はあまりにも嫌な奴に思えてくる。

判っている。でも、どうしても、以前の自分に戻れないのだ…。

もう、わからない…。俺は、一体どうすればいいのだろうか?

ピンポ〜ン♪

ふと、ドアのチャイムが鳴った。

どうせ、隣の人が回覧版でも持ってきたのだろう。

どうでもいいや…。

俺はそれを無視して、そのままベッドに横たわる。

枕の上に手を交差させ、天井を見る。

ピンポ〜ン♪

またチャイムが鳴る。

何だよ、しつこいな…。

ドンドンドン!

今度は太鼓を叩くように、ドアを打ち付ける音がした。

うるせ〜な〜……。

祐一「おい、北川! いるんだろ、おい!」

名雪「祐一〜、近所迷惑だよ〜…」

ドア越しで聞き覚えのある声が俺を呼んでいた。

しかし、その声も俺は無視した。

もう、ほっといてくれ…。

祐一「非常事態だ! それより、お前も北川を呼べよ!」

名雪「う、うん…」

祐一「おい、北川! いつまでウジウジしているつもりだ!」

名雪「北川く〜ん、出てきてよ〜」

祐一「そんな事したってな、過去は変えられないんだぞ!」

やめてくれ…。今の俺には、そんな事言われる資格などない…。

名雪「……」

祐一「もし、まだ香里の事を想っているなら、俺に着いて来い! お前に逢わせたい奴がいる…」

逢わせたい奴…?

祐一「お前が出てくるまで、俺はここにいるぞ!」

名雪「祐一?」

祐一「そう言う訳だから、名雪は帰ってろ…。秋子さんには、俺から事情を話しとくから…」

名雪「……嫌だよ、私もいるよ…」

祐一「そういうわけにいかないだろ?」

名雪「だって、香里は私の友達なんだよ? 私、香里の事、何にも知らなかった。妹がいたなんて事、ついさっきまで知らなかった…。

   だから、分るの。北川君がどうしてこんなに元気が無くなってるのか…」

そう言って、水瀬は俺がいるだろうと思われる方向に向かって話しかけてくる。

祐一「……」

名雪「悔しかったんだよね? 悲しかったんだよね? そして、許せなかったんだよね? 自分の事を…」

北川「……」

そう、図星だ。

この前は相沢にあんな事言っときながら、実際には嫉妬していたんだ…。

自分の無力さを棚にあげて…。

名雪「でもね、祐一の言いたいことも分るの。確かに、私たちは香里の心の傷に、香里の苦しみを知らなかった…。

   これは変えようもない事実だよ。でも、私たちにだってやれる事はあると思うよ…」

北川「……」

名雪「『過去』は辛いものかもしれない…。でも、『今』を、そして、『明日』を楽しいものにしてあげられる事が出来るんじゃないかな?

   それで、悲しい『過去』を楽しい思い出でいっぱいに埋め尽くすんだよ…。それは、私たちにしか出来ない事じゃないかな?」 北川「……」

祐一「お前がいつまでも過去を引きずっていても、香里が傷つくだけだ…。名雪の言う通り、これから頑張ればいいじゃないか?」

俺は何時の間にか、ドアの前に立っていた。

北川「……もう、遅いよ…」

祐一「北川?」

北川「俺、さっき、美坂を傷つけちまったんだ…。美坂が一番辛い思いをしているって事知ってたはずなのに、

   俺は『過去』に囚われて、美坂を傷つけちまった……。こんな俺に、美坂の『明日』を作る事なんて出来ね〜よ……」

そこまで言って、俺は小さく、嗚咽を漏らした。

そして、隻を切ったように、俺は泣き喚いた。

祐一「……」

名雪「……」

そして、その間も、二人は黙って、俺が落ち着くのを待っていてくれた…。


その後、落ち着きを取り戻した俺は、無理矢理相沢に連れられて病院にやってきていた。

北川「なあ、こんな時間で開いてるのかよ?」

思いっきり泣いたせいか、さっきまでと違って、少し気持ちに余裕が出来ていた。

祐一「大丈夫だ。ある人のコネを使って、入れるようにしてもらった」

名雪「私のお母さんだけどね」

一体、水瀬のお母さんって…。

祐一「さ、行くぞ」


そして、相沢に連れられた場所は個室の病室だった…。

ネームプレートには、『美坂 栞』と書かれていた。

北川「おい、逢わせたい人って、まさか…」

祐一「入るぞ」

俺の質問に答えず、相沢が病室に入っていった。

俺と水瀬も相沢に続いて入った。

祐一「よ、栞」

相沢が声をかけると、ベッドにいた女の子がむくっと起き上がり、こっちを見てにこっと微笑んだ。

栞「祐一さん、遅いです」

女の子は美坂に似ていた。

髪はセミロングより短く、外見的には幼い感じだが、美坂とよく似ている…。

祐一「悪い悪い、こいつがあまりにもグズグズしてたからさ…」

そう言って、俺を指差す。

栞「じゃあ、この人が…」

祐一「ああ。この前言ってた奴だ」



相沢の奴、何を言ったんだ?

祐一「あ、それと、こっちにいるのが、前に話した従兄妹の…」

栞「知ってます。お姉ちゃんの友達で名雪さんですよね?」

名雪「え? どうして知ってるの?」

栞「お姉ちゃんがよく話してました。いつも眠たそうな顔をしてて、猫アレルギーなのに猫を見ると人格が変わる人だって…」

名雪「うー。香里、酷いよ〜…」

祐一「当ってるじゃね〜か」

名雪「うー、酷いよ〜…」


その後、相沢と水瀬が『少し席を外す』と言って、病室を出ていった。

北川「あのさ、栞ちゃん?」

栞「はい?」

北川「相沢から、俺のこと何て聞かされた?」

栞「えっと……、『馬鹿でムッツリで、どうしようもない女たらしだけど、根は良い奴だぞ』って言ってましたけど…」

ゴン!

あまりの言葉に俺は壁に頭をぶつけた。

栞「わ。壁がへこみました」

北川「……」

相沢〜……、後で覚えてろよ〜…。

栞「ところで、事実なんですか?」

北川「全然、違う!」

栞「本当ですか?」

北川「……馬鹿なのは当たってるかもしれない…」

栞「くすっ」

北川「……」

俺との話で可笑しそうに笑う栞ちゃんに、美坂の影がだぶって見えた。

栞「? どうしました?」

北川「いや、美坂に似てるな〜…って思って…」

栞「そうですか? だったら、嬉しいです♪」

北川「?」

栞「私、お姉ちゃんみたいになりたいんです」

北川「美坂に?」

栞「はい♪」

北川「……好きなの? お姉さんの事…」

栞「ええ、大好きです♪ そして、自慢のお姉ちゃんです♪」

北川「……」


この子を見る限り、美坂がこの子に酷い事をしたとはとても思えなかった…。

しかし、だったら、どうしてこの子は笑っていられるんだろうか?

酷い目に遭ったのに、それでも、この子は美坂を慕っている。

どうしてだろうか? いや、答えは決まってる…。

『好きだから』

だから、美坂の事を許せるのであって…。

だから、美坂の事が自慢できて…。

だから、笑っていられるのだろう…。

俺に、そこまで美坂の事を深く思った事はあっただろうか?

いや、きっとあったんだ…。

俺はそれをどこかに置いてきちまったんだ…。

過去に囚われている時に…。

今なら、水瀬や相沢が言いたい事も分るような気がする。

大事なのは、『過去』なんかじゃない。

それに続く『現在(いま)』と、そして先にある『未来(あした)』なんだ…。


栞「北川さん?」

北川「栞ちゃん、聞いて良いかな?」

栞「はい?」

北川「君は、今、楽しいと思ってる?」

栞「はい♪」

北川「じゃあ、明日は?」

栞「もっと楽しみです。もう少しすれば退院できて、普通の生活を送れるんですよ? そうすれば、夢が叶えられるんですから」

北川「夢?」

栞「はい♪ お姉ちゃんと一緒に買い物に出かけたり、一緒に学校に行けたり出来るんですから」

北川「本当に美坂の事好きなんだな…」

栞「はい♪」

栞ちゃんの笑顔に、俺は少し考えた。


ここまで、彼女のことを想った事があっただろうか?

栞ちゃんのように、彼女を好きでいただろうか?


栞「……さん、北川さん」

北川「え?」

栞「えぅ〜、やっと気付いてくれたです〜…」

北川「あ、呼んでた?」

栞「何度も呼んでました」

北川「それはすまない…。……で、何?」

栞「お姉ちゃんの事好きなんですか?」

ドキッ!

北川「な、ななななな、な、何を言い出すんだい?」

いかん! またしてもどもってる…。

俺のそんな態度を見て栞ちゃんはくすっと笑っていた。

栞「やっぱりですね…」

バレタ……。

栞「祐一さんの言う通りでした」

北川「え? 相沢が?」

栞「はい」

北川「相沢の奴、まだ何か言ってたのか?」

栞「ええ。『あと、香里の事を真剣に想っていて、香里の笑顔を見たくて馬鹿な事をしている可哀想な男だ』って……」

北川「……栞ちゃん? それ、相沢が言った事なの? それとも、栞ちゃんの脚本?」

栞「そんな事言う人嫌いです! 祐一さんが北川さんの事、親友だと想っているから言っている事です!」

北川「……まあ、相沢の口の悪さは今に始まった事じゃないけど…」

栞「でも、本当は優しい人なんですよ」

北川「……そうかもな…」

栞「それに……」

北川「ん?」

栞「実は、私、お姉ちゃんから北川さんの事を聞いた事があったんですよ」

北川「え?」

美坂が俺の事を?

栞「ここ2年間の間、病院に見舞いにくる時に、お姉ちゃんがよく話に出してたんです。

  『いつも馬鹿な事言って、ふざけているのか真剣なのか判らない男の子がいるのよ』って…」

それって、まさか……。

栞「それを言ってた時のお姉ちゃん、本当に可笑しそうに笑っていて、私までつられて笑顔になっていったんですよ。

  笑っていても、どこか哀しい顔をしていたお姉ちゃんが、心の底から笑っていたんですから…」

北川「笑ってた? 美坂が?」

栞「はい。それと、お姉ちゃんは気付いていなかったと思うんですけど、たまに憂鬱そうな顔で見舞いにくる事があるんです。

  いつもはその男の子の話をしてくれるのに、『今日は休んでるの』って言って、自分まで暗い顔をして…」

そう言って、栞ちゃんは引出しの中からここ二年間のポケットカレンダーを取り出した。

栞「ここと、ここ、それと……」

栞ちゃんが指し示した日付には覚えがあった。

一人暮らしに慣れたとはいえ、やはり疲れは溜まる。

そのせいで風邪を引いて学校を休んでいた日もあった。

その日付と、栞ちゃんの指し示した日付が一致してたのだ。

栞「その時に、窓を見て小さくぽつりと呟いたんです。『おはようが聞けなかったな…』って……」

北川「……」

栞「多分、お姉ちゃんを元気付ける魔法の言葉だったと思うんです…。さっき、お姉ちゃんが来た時、元気がなかったですから…」

北川「!」

それって、さっきの……。

栞「北川さん?」

北川「そんな……、そんな事って……」

俺のせいで、俺のせいで美坂どころか、栞ちゃんの笑顔まで…。

栞「どうしたんですか?」

北川「栞ちゃん、ごめん…。俺、君のお姉さんを……」

俺は正直に話した。今日の放課後、自分の馬鹿さ加減で美坂を傷つけた事を……。

栞「……」

北川「本当にごめん…。俺は自分の無力さを棚にあげて、美坂にきつくあたってしまったんだ…。

   判っていた、判っていたつもりだったんだ…。美坂が一番辛い思いをしているって事は…」

栞「……」

北川「今更こんな事言っても、言い訳にしか過ぎないかもしれないな…。

   君のお姉さんの笑顔を奪ってしまったこんな俺に、彼女を幸せになんか出来やしないんだから…」

そう、俺は彼女を守るどころか、傷つけてしまったのだから…。

現に栞ちゃんは俺の事をじっと睨みつけている…。

仕方ないか、自業自得だし……。

しかし、栞ちゃんは急に微笑んで、意外な事を言ってきた。

栞「お姉ちゃんと同じ目をしているんですね…」

北川「え?」

栞「祐一さんから聞いていたんですよね? お姉ちゃんが私にした事…」

北川「……」

俺は答えられなかった。

しかし、俺の無言は栞ちゃんには肯定に映ったようだった。

そして、栞ちゃんは俺に問い掛けてきた。

栞「どうして私がお姉ちゃんの事を憎まないか判りますか?」

北川「美坂の事が好きだからじゃ…」

栞「それもあります…。でも、本当は、それがお姉ちゃんの優しさだと判っていたからです…」

北川「優しさ?」

栞「私の死を認めたくないから、私の事を本当に愛してくれるから、だから、あんな事したんだと思ってるんです」

北川「……」

あまりにも都合の良すぎる解釈の仕方だと思った…。

栞「だから、北川さんの気持ちも判るんです。お姉ちゃんの事が本当に好きだから、そんな事したんだなぁ…って」

北川「……」

そう言われれば、確かにそうなのかもしれない…。

だけど、俺は……。

栞「それでも、許せないですか?」

後悔が晴れないでいる俺の顔を見て、栞ちゃんがそう聞いてくる。

北川「……ああ。俺がした事は許される事じゃないんだ…。だから、どんな罰も甘んじて受けるつもりだ…」

栞「……そうですか…。それじゃ、罰…と言うより、お願いがあります……」

北川「お願い?」

栞「はい。三つ、このお願いを約束してくれたら、許してあげます…」


俺は病院を出て考えた。

栞ちゃんの三つの願い。

あまりにも優しすぎる願いであり、難しい願いだった。

そんな事、俺に出来るのだろうか?

祐一「よう、どうだったか?」

北川「相沢…」

病院を抜けたところで、相沢が声をかけてきた。

北川「待ってたのか?」

祐一「ああ、お前がまた泣くんじゃないかと心配してたんだが、あまりにも遅いんで、名雪の奴寝ちまったよ…」

よくよく見ると、隣で「くー」と寝息を立てて相沢の肩にもたれかかっている水瀬がいた。

相沢は水瀬を背負い、「帰るぞ」と言ってきた。

北川「夜更かしが出来ないって聞いてたけど、本当なんだな…」

祐一「これで、朝早く起きてくれれば、助かるんだけどな…」

そう言ってるが、相沢は水瀬を優しい目で見ていた。

そんな相沢を見て、俺は常々思っていた事を聞いてみた。

北川「なあ、相沢」

祐一「ん?」

北川「お前と栞ちゃんって恋人なのか?」

祐一「……一時的のだけどな…」

北川「え?」

祐一「『自分が死ぬまでの間だけ、恋人になって下さい』って言われたんだ…」

北川「じゃあ、今は?」

祐一「……治った後で、栞から言われた。『改めて付き合ってください』って…」

北川「断ったのか?」

相沢は無言で頷いた。

祐一「……実は、栞の事だけじゃなくて、他にも色々あったんだ…。そのせいか、俺のことを慕ってくれている人がいた。

   皆優しくて、とても素敵な女の子だ。俺としても、付き合っても良いと思っていた。

   だけど、俺にはずっと、心の中にい続けた奴がいた…。俺の事をずっと想い続けた少女がいた……」

俺には判っていた。

以前、聞いていたから…。

今、相沢の背で幸せそうに眠っている少女に…。

北川「そっか…」

祐一「軽蔑しないのか?」

北川「ちゃんと、伝えたんだろ? その女の子達に誠意を込めて謝ったんだろ?」

祐一「ああ……」

北川「だったら、俺はお前を軽蔑するどころか、尊敬するぞ」

祐一「え?」

北川「普通出来ないぞ? そんな勿体無い事を思いきって断ち切るなんて…」

祐一「勿体無いって……。せめて、勇気ある行動と言え」

北川「『勇気』ねぇ…。お前には似合わない言葉だな」

祐一「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるぜ」

北川「どう言う意味だ?」

祐一「言葉通りだ」

北川「美坂の真似するな…。気持ち悪い…」

祐一「おっ、似てたか?」

北川「全然!」

帰った後になって気付いた。

俺が以前の自分を取り戻しつつある事に…。


翌朝早く、俺は美坂の家に来ていた。

チャイムを押すわけでもなく、塀に寄りかかって、ただ美坂を待っていた。

がちゃ!

ドアの開く音が聞こえた。

香里「じゃあ、行ってきます」

そして、パタパタと足音が近づいてきた。

香里「え?」

玄関の門扉を出たところで、俺に気付く。

北川「美坂、話があるんだ」

香里「……」

俺の真剣な様子に美坂は少し驚いていたが、こくっと頷いた。

北川「とりあえず、一緒に行かないか?」

香里「ええ…」

………………………………………………

北川「昨日は本当にごめん。いらついていたとは言え、美坂に当っちまって…」

香里「ううん、いいわ。私も悪かったし…」

北川「いや、でも、あれは俺が…」

俺が言葉を続けるのを美坂が手で制した。

香里「違うの…。あたし、北川君が言った通り、貴方がいつも明るく笑っていて、悩みや苦労なんか無いなんて思ってた。

   本当、馬鹿よね…。誰だって、悩みや苦労を持ってるのは当たり前なのにね…」

北川「……」

何やってるんだよ、俺…。

これじゃ、栞ちゃんとの約束が果たせないじゃないか…。

香里「本当、あたし、北川君の事、何にも知らないのに、勝手な事言ってるね…」

よくよく見ると、美坂の肩が振るえていた。

やべぇ! また美坂が泣いてしまう!

北川「止せよ…」

俺は美坂の肩を掴んで、揺さぶる。

香里「だって、こんなあたしじゃ、北川君の事、ううん、皆を傷つけるだけだもの…」

しかし、美坂は俺の言葉に耳を貸さず、俺の胸の中でとうとう泣き出してしまった。

北川「……」

初めてだった。

俺の前で涙を見せてくれたのは…。

そして、俺は気付いた。

今の美坂は、昨日までの俺と同じだという事に…。

しかし、こういう事に不慣れな俺にはどうすればいいのか判らなかった。

だけど、俺の体は自然と美坂の体を抱きしめていた。

香里「え?」

一瞬困惑した美坂だが、それに抵抗しようとはしなかった。

俺は美坂の顔を見ず、優しく話し掛けた。

北川「何があったか俺は知らないけど、そこまで自分を責めるなよ…。

   美坂が俺の事知らないのは仕方ない事だし、俺だって美坂の事を全部知ってるわけじゃないんだ…」

香里「……」

北川「だけど、それはこれから知っていけばいいことだし、これから考えていけばいい。

   別に取り返しつかない事をしたわけじゃないんだから、幾らだってやり直せるさ」

美坂「!」

俺の言葉に美坂は「何故知ってるの?」と言うような顔で俺を見るが、俺はわざとそれに気付かない振りをした。

そして、俺はいつもと変わらぬ飄々とした顔で、美坂に微笑んだ。

北川「だろ?」

香里「……」

俺の笑顔に美坂は少し顔を赤らめた。

そして、美坂はハッと気付く。

自分の今の状況に…。

香里「キャッ!」

ドンッ!

北川「うわっ!」

案の定、突き飛ばされた。

香里「あ、ごめん!」

北川「い、いててて…」

尻餅をつき、俺は顔をしかめる。

香里「あ、ご、ごめん。でも、北川君も悪いのよ?」

謝りながらも笑みを浮かべる美坂が俺に手を差し伸べる。

北川「俺のせいかよ?」

その手を取り、立ち上がる。

香里「……さっ、学校行きましょうか?」

一瞬考え、何もなかったように歩き出す美坂。

北川「誤魔化すなよ」

香里「ふふっ」

北川「あ……」

笑った…。

俺を見て笑ってくれている。

前と違って、凄く嬉しい。

そして、純粋に可愛いと思う。

香里「な、何よ?」

北川「いや、美坂のそういう笑い方って可愛いなあって思って…」

香里「!!」

ボッと一気に沸騰させるように顔を真っ赤にする美坂。

成程、こう言うことに弱いのか…。

また少し、美坂の事を知った俺だった。

香里「……」

スタスタスタスタスタ…

赤面したまま、美坂は無言で早歩きで先を行った。

北川「お、おい、美坂、そんなに急がなくても…」

香里「ついてこないで!」

北川「何だよ、照れてるのか?」

香里「そ、そんなわけないでしょ!」

今の態度を見る限り、明らかに照れているのがわかる。

北川「ぷっ…」

香里「何が可笑しいのよ?」

北川「いや、今だけでも、結構美坂の事知ってきたなあって…」

香里「………自惚れないでよ……」

北川「おっと、早くしないと遅刻しちまうな〜」

俺は時計を見て、大げさに驚く真似をして走り出した。

香里「ちょ、ちょっと、待ちなさい!」

美坂も俺を追いかける。


そんな事をしながら学校に向かう途中で、俺は栞ちゃんとの約束を思い出す。

北川「美坂」

俺は後ろを振り向いて、声をかける。

香里「何よ?」

北川「遅れちまったけど、『おはよう、美坂』」

その時の美坂の顔は今までになく真っ赤だった…。


栞「一つ目は、お姉ちゃんの悲しみを受け止めてあげる事。

  二つ目は、お姉ちゃんを幸せにしてあげる事。

  そして、最後の三つ目は、お姉ちゃんの笑顔を絶やさないように『おはよう』って挨拶をしてください。

  それを守ってくれるなら、許してあげます。だから、頑張ってください、お義兄さん♪」



<後書き>


どうも、北×香絶対属性のjunpeiです。

リンク記念としては、またjunpeiとしては少し異色のSSにちょっと不満を感じる方もいると思いますが、

まだあきゅらさんのリクSSがあるので、そちらに期待(?)しててください。

今回のSSは香里の悲しみと痛みをわかってあげられなかった北川が、

そのふがいなさを通して改めて自分の気持ちと向き合い、そして強くなろうとするSSです。

……と書いてますが、実はこのSS、HP開設する前に書いていたSSで、ちょっと文章が短絡過ぎるところがあるかもしれません。

至らない点等ありましたら、遠慮なく逝ってください(ぇ

それでは、また次回。

さよなら、さよなら♪



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