「昨夜未明。・・・市にお住まいの・・・さんが、・・・市に住む36歳・無職の男に殺害されました。警察は・・・」
モニターの向こう側。
感情のない声でニュースキャスターが誰かの不幸を知らせている。
殺人か・・・・・・。
どうしてそんなことができるんだろう?
こんなニュースが放送されるたびに思う。
ガチャッ
「おまたせいたしやした」
部屋の扉が開いて彼が姿を現した。
矛盾だらけの I love you
「いやあ悪い悪い。なんかコーヒーメーカーの調子が悪くてさ」
ここは北川君の部屋。
今日は彼の家にお邪魔させてもらっている。
「別によかったのに・・・・・・」
「おまえなぁ・・・・・・。自分の彼女が家に来てるっていうのに、コーヒーのひとつも出さない男がどこにいる?」
頬が熱くなるのを感じた。
入れたばかりだと思われるコーヒーカップが、小さいテーブルに置かれる。
部屋に、湯気といい香りが漂い始めた。
「ありがと」
「砂糖は?」
「大丈夫。いらない」
彼が勉強を教えてくれと(泣きながら)言ってきたので学校帰りに寄ったのだ。
そんなわけで二人とも制服のまま。
「それで、どこがわからないの?」
「それがここなんだが・・・・・・」
数学の問題集を広げる彼。
「ああ。それはね・・・・・・」
教えるあたし。
「おお! なるほど! さっすが美坂」
一度わかると黙々と問題を解き始めた。
もともと彼は頭が悪いわけではない。
理解してしまえばあたしよりも早く解いてしまうこともある。
手持ち草になってしまったあたしは、カップに口をつけながら先ほどのニュースに耳を傾ける。
「犯人は被害者の女性に一度関係を拒まれたようで・・・」
相変わらず感情のない声。
なるほど。
そういうことか。
加害者は逆恨みしたのだろう。
自分を拒絶した女性を。
愛しすぎたゆえの犯行か。
「怖えよなぁ」
突然、シャーペンを走らせながら彼が呟く。
「自分が愛した人を殺すんだぜ・・・・・・信じらんねぇよ」
下を向いたまま彼は続ける。
ふと・・・・・・すこし気になったので訊いてみた。
「もし・・・・・・もしあたしが別れようって言ったら、どうする?」
ぴたっと彼の手がその作業をやめた。
しまった・・・怒らせちゃったかな・・・・・・。
ちょっと気になっただけなのに・・・・・・。
「あ、ごめんね。変なこと聞いちゃって。忘れて今の」
心にもないことを言ってすこし自己嫌悪。
あたしの馬鹿、どうしてこんなこと訊いたのよ。
「そうだな・・・・・・」
ゆっくりと顔を上げながら、彼の表情は・・・
「本当に美坂がそれを望むのなら。オレはきっぱりと諦めるさ」
笑っていた。
だけど、どこか悲しみを帯びたその微笑。
こちらまで悲しくなるような、胸を締め付けられるその笑顔。
どしてだろう?
彼はこんな笑顔をみせることがたまにある。
いや、今はそれよりも・・・・・
「そんな簡単に諦めることができるの?」
だとしたらすこし寂しい。
北川君にとって、あたしなんてその程度の存在なのだろうか?
「ああ」
彼は立ち上がると、夕日が差し込む窓へと向かう。
「どうして?」
あたしは同時に立ち上がって質問を続ける。
どうして?
なぜ?
あたしのことが好きなんじゃないの?
あたしのことを愛してくれているんじゃないの?
目が涙でにじんでいくのが自分でもわかる。
さっきのニュースは確かにひどい事件だと思う。
だけど、彼が答えた言葉もあたしにとっては同じくらいひどい。
そんなの、悲しすぎる。
外を眺めながら彼がしゃべり始めた。
「オレはさ・・・・・・本当に美坂のことが・・・・・・香里のことが大好きなんだ」
名前で呼ばれてどきりとする。
二人でいるときだけ、極稀にだけどそんなときがある。
夕日で照らされて、部屋へと伸びる彼の影。
「じゃあどうして・・・・・・」
「本当に好きだからこそ、香里には幸せになってほしいんだ」
言いかけた言葉を遮られる。
「だから、もし本当に香里がオレのことを嫌になったら、もしオレのほかに好きな奴ができたとしたら・・・・・・俺は・・・・・・」
ゆっくりとあたしのほうへ体を向けながら・・・・・・
「きっぱりと諦めてみせるよ。香里を困らせたくないからな」
今度もどこか悲しげな笑顔。
「だってそうだろ?もうオレのことを見てくれない香里を無理やり自分の下へ繋ぎとめたとしても、そんなの全然嬉しくない」
かえってつらくなるだけさ・・・・・・、と呟きながら。
あたしはやっぱり馬鹿だ。
どんなに勉強ができても人の気持ちをわかっていない。
彼はこんなにもあたしのことを思ってくれているのに。
ただの興味半分であんなことを訊いて。
彼を困らせて。
「香里・・・・・・?」
俯いたままのあたしに彼が近づいてくる。
「ごめんなさい・・・」
彼の胸へと体を預ける。
罪悪感でいっぱいの胸。
「気にすんなって」
抱きしめられた。
やさしく包んでくれる、暖かくて大きな彼の手。
外見からは想像できない、たくましくて広い胸。
「本当に・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
そしてありがとう。こんなあたしのことを想ってくれて。
あたしはそのまましばらく、彼の胸で泣き続けた。
「ありがとう。送ってくれて」
「これくらいのことは当然でございます」
ややおどけた口調。
いつもと変わらない。
ここは美坂家の前。
遅くなったので彼に送ってもらったのだ。
真っ暗な路地。
街灯と玄関の明かりだけが、あたしたちを照らしている。
さっきのことを思い出す。
北川君の気持ちはすごく嬉しかった。
そしてすごいとも思う。
人のために自分のエゴを抑えることはなかなかできないことだ。
けど・・・・・・
女の子としてはやはり、「絶対にはなさい」とか、「おまえは俺のものだ」とか、そんな言葉を言ってほしかった気がする。
・・・・・・なんて。栞じゃあるまいし、言えっこないけど。
彼のキャラとも違うし・・・・・・
「ふふふ・・・・・・」
「どうしたんだ?」
思わず想像してしまった。
あまりにも似合わなくて笑ってしまう。
「な、なんでもないわ」
「おかしな奴だな・・・・・・」
でもあたしは、そんなあなたが大好きだけどね。
「じゃあね、北川君。また明日」
玄関のドアへと向かう。
「美坂」
「え?」
呼ばれて振り向いた瞬間。
唇に触れる暖かい感触。
そしてそのまま抱きしめられる。
「き、北川君?」
いきなりのことで頭がついていかない。
「さっきはあんなカッコつけたこと言ったけどさ・・・」
耳元で囁き始める彼。
「実際におまえがあんなこと言い出したら、俺は泣いててでも頼み続けると思う」
背中に回された手に力がはいるのがわかる。
「別れないでくれって、ずっと、そばにいてくれって」
彼の鼓動が伝わってくる。
早さを増していて、緊張しているのがばればれだ。
「カッコわりぃかもしれないけど・・・」
ゆっくりと解放されるあたしの体。
「これがオレの、ホントに本当の気持ちだから」
真剣に見つめてくるその眼差し。
「なんて、矛盾しまくってるな、オレ」
今度は一転、照れくさそうに鼻の頭をかいている。
「悪かったな呼び止めて、それじゃ」
踵を返して去って行く彼。
ふんっだ。
やられっぱなしで、あたしが黙っているわけないでしょう?
「北川君」
「え?」
これはお返し。
本当の気持ちを伝えてくれたあなたへの、
あたしからの―――――――――――――――――――
END
あとがき
甘か〜
もう今回はこの一言に尽きます(笑)
衝動書きとはこのことか・・・
ただラブラブな話が書きたいがために、
もうなんだかぱっと閃いてぱっと書いたSSです。
こんなんでよかったら感想まってます。
しかし一人称むずか・・・
もっと文章力欲しい・・・
11月12日(修正12月6日)
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