質問です。


あなたはメールをする時、携帯電話とパソコン。


どちらを主に使用しますか?






悪戯心に想いを隠して




「はあ……」

 毎度お馴染みのまるで戦争の様な喧騒に包まれる学食内。
 なんとか席を確保し食事中のいつもの美坂チームの面々。ただ其処には一つ馴染みの顔が見当たらない。
 そんな中美坂嬢が一人、頬杖を付きながら溜息を付く。手に握られているフォークでスパゲッティを弄ぶ様にして。

「どうしたの香里〜、溜息なんか付いちゃって」
「名雪……分かってやれよ。今日は北川が休みだろ」

 お気に入りのイチゴムースを口へと運びながら疑問を投げかける名雪。メニューはやはりAランチである。
 それぐらい訊かなくても分かるだろ? っとグラスを傾けながら呆れ気味の祐一。此方はカレー。

「あ、そっか〜北川君がいないから寂しいんだね」
「そうなのよ……って、ち、違うわよ!」

 そう、今日は元気印の自称学食王、北川潤が欠席なのである。その所為かというかなんというか、香里は朝から元気がない。
 溜息もこれが最初ではなく授業中も何度も付いていたのだが、万年熟睡状態の前二人が気付く筈もなし。

「やっぱり連れがいないとつまらないよなー」
「あ、相沢君!」
「香里〜無理は良くないよ」
「もう! 名雪まで!!」

 耳まで真っ赤にしながら抗議し始める香里。席まで立った為に彼女の美しくウェーブを描く髪が撥ね、机の皿たちがガシャンと揺れる。
 普段、此処まで感情を露にする彼女は殆ど見る事が出来ないだろう。調子に乗った祐一と名雪は追撃をしようとしたのだが……。

「ちょ、ちょっと聞いてよ二人とも! あたしが溜息を付いたのはちょっと分からない事があって」
「分からない事?」

 名雪がスプーンを咥えたまま首を傾げる。頭脳明晰な彼女が分からないとはどんな事だろうか。
 無論、図星を突かれた香里の言い訳とも取れなくはないが。

「へえ、香里が其処まで悩んで分からない事って何だ?」

 興味が湧いた祐一は訊いてみる事にした。名雪同様と同じ考えが浮かんだからである。
 尤も、此方は学年主席の彼女が解明できない事を自分が解いて自慢しようという何とも彼らしい考えが浮かんだだけだったが。

「えっとね。昨日の夜……その、北川君とメールしてたんだけど……」

 落ち着きを取り戻した香里は席に着きながら順を追って説明し始める。
 北川の名前が出たとき、少しどもった事に祐一はからかおうとしたが話の腰を折るのもなんなのでぐっと我慢する事にした。

「彼、最後にこんなメールを送ってきたの」

 そう言って香里は学食の机にストックされていた少し固めのペーパーに何やら文字を書き始める。
 真面目な彼女らしい、小奇麗な女性文字がさらさらと紙の上に記されていく。

「これなんだけど」

 全てを書き終わり、向かい側の席に座っている二人に見え易いようにして紙を反転させる。
 目の前に出されたそれを二人は覗き込む様にして見つめた。そして揃って目を丸くする。

「なんだこりゃ」
「へ……北川君、何が言いたかったんだろう?」

 二人がそう言うのも無理はない。
 だって紙に書かれていた文字は……





ちみちかちみらのらからてらちにとにかいにもちとな。


といのちにしいにかにこちみみしちすいんらすにもら。






 なんとも不思議な平仮名のみの文字列だった。しかも問題なのは其処ではなくその内容である。
 まったく意味が分からないのだ。まるで何かの暗号めいていた。

「ね、訳分からないでしょう?」

 そう言って再び伏せ目がちに溜息を付く。

「わ、わかったぞ!! こ、これは北川が香里に出した暗号だ!!」

 突然祐一が後ろに椅子ごと体を引く大袈裟にリアクションしてみせる。
 初めて彼に会った人なら何かツッコミを返してくれたかもしれないが、もはや慣れてしまった二人には普通に言葉を返すだけだった。

「暗号?」
「どういう事、相沢君?」
「……二人とも、何かつっこんでくれないと非常に辛いのだが」

 固まった姿勢のまま目で訴えかける祐一。その行動の為に通路を塞いで周りが迷惑している事に気付く様子もない。

「だっていつもの事だもん」
「いちいち反応してたら身が持たないわよ」

もううんざり。そんな表情が名雪と香里には窺えた。

「……うう……北川ぁ、何故お前はこういう時にいないんだ。ああ心の友よ、カムバーーック!!」

 唯一自分の行動にツッコミを入れてくれる親友を思い祐一は涙した。
 最近、反応が冷たい名雪と香里にたいして未だにツッコミを返してくれるのが北川なのである。
 というか両手を合わせて目を潤ませるその姿ははっきり言ってきもい。

「なんでもいいからはやく説明してよ」
「……血も涙もないっすか……。まあいいや」

 仰け反ったさい少し後ろにずれた椅子を元に戻しながら、コホンっと咳をひとつ付き祐一は説明をし始めた。
 ただ机に肘を付き、合わせた両手に顎を乗せるようにして話している分まだつっこみを待っているのだろう。
 どっから取り出したのか、いつの間にかサングラスを掛けてるし。

「まあ考えてもみてくれ。こんなメールを送ってくるなんて暗号以外考えられないだろう?」
「祐一……映画と漫画の見すぎじゃ……」
「はい其処余計なつっこみ禁止!」
「でもどうして暗号にする必要があるのよ?」
「何か言えない事でもあったんじゃないか?例えば素のままじゃとても言えないようなこっ恥ずかしい事とか」
「う〜ん」
「まあ、とりあえずもう一回それをよく見てみようぜ」

 祐一の言葉に三人揃って再び紙へと目を向ける。しかし見れば見るほど謎が深まるばかりのその文字列。
 果たしてあのおちゃらけ男は何が言いたいのであろうか。

「そういえば何回も使われてる文字が多くない?」

 暫く睨めっこした後、名雪が二人を見るようにして一言感想述べる。

「そういえばそうね」
「え〜と、『ち』と『ら』と『に』と……あと『い』だな……特に多いのが」
「そうね……しかも別の文字と交互にくるようになってるわ」

 香里がある規則性を発見した。しかしそれが何なのかまでは分からない。

「「う〜ん」」

 目を瞑り、椅子に深く腰掛けながら腕を組んで頭を悩ませる香里と祐一。
 祐一に関して言えば彼が此処まで頭を悩ませることは勉強ではまずないだろう。
 生徒達の声が騒がしく反響する学食で、ここまで集中することができるのだからその集中力を勉強に使えば少しは頭がよくなると思うのだが。
 名雪はというとまだ謎の文字列を見つめていた。そして暫く唸った後、不意に名雪が口を開く。

「ねえ香里。昨日何かメールしてるときに変わったことなかった?」
「変わったこと……? なかったと思うわよ。……あ、そういえば」
「え、なになに?」

 ふと何か思い出したように顔を上げる香里。名雪はそれを急かすように体を乗り出す。
 こういう時、妙に鋭いのが名雪だ。しかも彼女の普段が普段なだけに余計に意外に感じてしまう。

「うん、大した事じゃないんだけどね。いつもメールするときってお互いに携帯を使うのよ。それが昨日の北川君はパソコンを使ってたみたいで」

「なに、それは本当か?」

 今まで黙っていた祐一が『パソコン』と言う言葉に反応した。今まで閉じていた目を見開いて香里に問い詰める。
 どうやら彼には思い当たる節があるらしい。

「え、ええ」

「名雪、ちょっとそれ貸してみろ」

 そういうと祐一は紙をじっと見つめてなにやらブツブツと言い始めた。同時に右手の人差し指でコツコツと机の上を叩く。

「え〜と確か『ち』が……で……が……だから……ふむふむ……わかったぞ!!」
「えっホント、祐一」
「ふ〜む。しかし北川……恥ずかしい奴……ぽっ」

 両手を頬に当てる仕草をする。この男、きもいという自覚がないのだろうか? 心なしか少々引いている名雪と香里。

「ちょっと、どういう事なの相沢君」

 一人だけ謎を解いたらしい祐一に香里は答えを言うよう促す。僅かだがその言葉には苛立ちが含まれている様で。

「香里・・・お前家にパソコンあるか?」
「パソコン? まあ、あるにはあるけど……でもほとんど使ってないのよね」

 ふむ、と一息つくと祐一は再び目を閉じ暫く考え込んだ後、にかっと香里の方を見つめた。
 こういう時は大概、何か面白い事を思いついたときである。

「じゃあさ、ちょい耳かせ」
「え……?」

 香里になにやら耳打ちをし始める祐一。

「ごにょごにょ……分かったか?」
「……それで分かるのね? これの意味が」
「もうこれでもか!! ってくらい」

 祐一、親指を立ててサムズアップ。ウインクのオマケ付き。もうあえて何も言うまい。

「え〜どういうことなの〜?」

 まだ分からない名雪は祐一に向かって抗議を投げつける。膨らんだその頬。ただ毎度のことながらとても怒っている様には見えないが。

「名雪……家に帰ったら教えてやるから」
「う〜絶対だよ?」

 まだ拗ねている名雪の頭をぽんぽん、と叩く。どうやら此処で教えてしまっては問題があるようだ。

「じゃあそろそろ教室に戻るか。しかし香里……」
「何?」

「いい彼氏を持ったな」

 そう言うと祐一は軽く手を上げて名雪を連れて学食から出て行った。

「なんなのよ……もう」

 後には少し頬を赤くした香里の呟きだけが残った。



* * * * * 




「ただいま〜♪」

 時は流れて、また場所も変わりて此処は美佐書け……いやいや美坂家。友達との寄り道を楽しんだ栞嬢が上機嫌に御帰宅。
 外は暗幕を下ろした様な暗さである。路上では街灯が明かりを点灯し、街がライトアップされ始めていた。

「あれ? 何やってるの、お姉ちゃん」

 いくら経っても返事が返ってこない事に疑問を抱きながら靴を揃える。
 母は朝遅くなると言っていたのを覚えているが、玄関を見る限り姉は帰ってきている筈である。

そして居間へと入って来た栞が最初に見たものは何やらパソコンのキーボードとメモらしきものを交互にを睨みつけている香里。

「え〜と……これが……ここでって、あ〜もうめんどくさいわね」

 手に持っていた北川の謎メール(祐一命名)の複製を投げ出して、椅子に座ったまま背伸びをするように後ろを向き、手を伸ばす。

「お姉ちゃん、ただいまってば」

 自分が帰ってきたことに気付いた様子のない香里に栞は少し怒った口調で顔を覗き込みながらもう一度繰り返した。

「あ、栞。お帰りなさい」

 いきなり眼前に現れた栞に驚いた様子もなく言葉を返す。丁度香里から見て顔が逆向きに見える位置だ。

「お帰り、じゃないよ。さっきから言ってるのに」

 悪気が少しもなさそうな香里に少々不機嫌な栞。腰に手を当ててそれをアピールする。

「ごめんごめん。ちょっと取り込んでて」

 平謝りしながら床へと落ちた謎メールを拾いもう一度パソコンへと向き直る。何だかんだと言ってもやはり気になるらしい。

「珍しいね、お姉ちゃんがパソコン触ってるなんて。何かあったの?」
「それが、昨日栞にも見せたでしょ、あの変なメール」
「ああ、北川さんの。それで分かったの?」
「相沢君が言ってたんだけどね。何だかパソコンのキーでこれの平仮名のところをローマ字打ちしてみろって」
「祐一さんが? へ〜」
「それで今やってるんだけど、結構めんどくさくって」
「ふ〜ん。あ、そういえば今日私達が夕飯作るんだっけ。じゃあ私着替えてくるから、お姉ちゃんも早く終わらせて手伝ってよ」
「はいはい」

二階へと向かう妹に顔は向けず手だけを上げてから返事する。

「えっと、これが……」

 自分の方を向きもせず返事をした香里に栞は内心苦笑していた。階段を上りながら今の姉の姿を思い出す。
 栞から見ても、香里は変わったと思う。実は自分の事で香里に苦労をかけてしまった罪悪感がまだ栞の中に残っていたりする。
 同様に香里の中にもまだあの時のことは吹っ切れていないのだろう。たまに、なんとなくだがぎこちなさを感じる事がある。
 しかし、そんな姉は最近よく笑うようになった。前のようなクールな笑みではなく心からの微笑が。
 その理由は栞にはよく分かっている。それはあの人と付き合い始めてから。
 栞から見てもあの人は面白い人だと思う。よく笑う人だとも思う。あの笑顔にはどこか人を幸せにする力があるのだ。
 もっとも、栞が想いを寄せている相手同様、本人にはまったく自覚がないというところが偶に傷だが。その人が送ってきたあの謎のメール。
 あれにはどういう意味が含まれているのだろう?
 ドラマ好きの彼女にとっては祐一と同じく、何かしら深い意味があるのではないかと思っていた。

 さて、栞が着替えてから階下へ降りて再び見た姉の姿はなんとも奇妙なものだった。真っ赤な顔でディスプレイに目を固定したまま停止している。
 画面を見つめているその目には驚きとか動揺とか、そんな感情が読み取れた。両手はキーボードの上に乗せられたままである。
 とりあえずこのままにしとくのもなんなので声を掛けてみる事にした。

「お姉ちゃん?」
「うっひゃあ!?」

 急に後ろから声を掛けられて驚いたのかなんなのか。突然奇怪な声を上げ、ビクッとその体を跳ね上げる香里。当然、声を掛けた栞も驚く。

「ど、どうしたの?」
「あ、え〜と、あ〜……あ、ちょっと自分の部屋に戻ってくるわね」

 どう見ても動揺しているとしか思えない香里は、素早い手付きでパソコンの電源を落としそそくさと居間から出て行こうとする。
 怪しい、思いっきり怪しい。その頬は紅潮したままだし足取りもどこか不自然である。其処で栞はピンときた。
 姉がこんな状態になるとすれば、今はあれしか考えられない。

「ねえ、あれの意味わかったの?」

 一段目へと足をかけた香里に、悪戯っ子の様な微笑を浮かべて問いかける。

「えっ!? さ、さあなんの事かしら?」

 そう言い残すと、香里はすごい速さで二階へと駆け上がって行った。あの感応を見る限り、どうやら栞が考えたとおりの内容だったらしい。
 あんなに慌てる姉の姿はそうそう見る事は出来ないので、込み上げて来る笑いを抑える事が出来ない。

「どんな意味だったんだろ? あとで訊いてみよ♪」

 足取りも軽く、栞は台所へと入って行った。



* * * * * 




「はあはあ……あのお調子者」

 一方、こちらは急ぎ足で部屋へと駆け込んだ香里。息も切れ切れに謎メールを睨み付ける。
 そして自らの机の上からお気に入りのストラップがついた携帯を鷲掴みにして、そのままベットへと飛び乗った。

「もう、お返しだわ」

 未だ上気した顔のまま、すごい剣幕をその表情に浮かべ、右手で文字を打ち込み送信ボタンを押す。送る相手は当然、あのメールの送信者に。
 送信完了の画面が映し出されると、携帯を投げ出して枕へと顔を押し当てた。その顔は自分でも耳まで熱くなっているのが分かる。

「そういう事は口に出して言って欲しいのよね……」

 彼女の呟きは他の誰に聞かれる事もなく、枕の中へと消えていった。



* * * * *




「へ〜っくしょい!!」

 所変わって此処は北が沸け……いやいや北川家。一人の少年が盛大なくしゃみをしていた。

「う〜む。誰かがこの潤様の噂でもしているのかもしれん」

 鼻水を啜りながらあほな事を言っているのは誰であろう事の騒動の発端、本日風邪で欠席した北川潤本人である。
 今しがた起きたばかりなのでパジャマ姿のまま。この男も祐一同様、普通の人とは何処か何かがずれているらしい。
 そうでなくては祐一とは親友などやってられないが。
 彼がティッシュへと手を伸ばした時、携帯が鳴り響いた。画面にはメール受信の表示。

「この着メロは……美坂か。さて、あれの意味は分かったかな?」

 淡い期待感を胸に、携帯のボタンを押していく。
 彼も香里も、あまり恋愛に対する感情表現はうまくない。
 だから偶に確かめておかないと、なんだか友達として自然消滅してしまうのではないかという不安に駆られる。
 無論、決してそんな事はないと分かってはいるのだが。
 そして今回彼が考えたのがこのメール作戦である。
 機会に疎そうな彼女がこの謎を解けるかどうか微妙なところだったが返事が着たところをみると分かったのだろう。  はたして彼女はどんなメールをくれたのか?
 そして北川が開いたメールには……






意味が分からないわよ、バカ。


めとお








「あちゃ〜やっぱ分からなかったか」

 ぼりぼりと寝癖だらけの後頭部をかきながら苦笑する。どうやら香里は意味が分かった事は書かなかったようだ。

「やっぱり、ちゃんと言葉にして言わないと駄目かな……」

 もう月が昇り、星がちらつき始めた真っ暗な空を見上げて呟く。
 北川は気付いてはいないが、香里はしっかりとあれに対する答えを返していた。



 果してあれの内容は何だったのか? 香里が送った答えは?
 その両方を知るのは、香里本人だけだったり。























あなたのことをあいしています。


せかいでいちばんだれよりも。


















me too

















あなたはこの謎が、解けましたか?




















<あとがき>


んちゃ!おらあきゅら(死)
え〜と訳わからん挨拶から入ってしまいましたがお読みいただいてありがとうございました。
そしてとりあえずごめんなさい(汗)
時間がなくてなくてもう泣きたいくらいなくてというか泣いて(黙れ)
なんとも意味不明な内容になってしまいました。
とりあえず実体験をもとに書いた今回のお話。
カノンでは初の三人称だったのに……。
今度はもっと内容のある話を書こうと思います。
あ……12月は名雪の誕生日だ……今から間に合うかな(※間に合わなかった※)

12月8日・炬燵に入りながら。 修正日3月7日(ほんのちょっとだけ)

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